REPORT
レポート
SHIBUYA109 lab.
2018.10.30
#エンタメ・カルチャー
【東大研究員×フリュー×SHIBUYA109 lab.連載企画】プリ帳HISTORY 第6回
「プリ帳」からガールズカルチャー史をひも解く本連載。第6回目のゲストは、フリーライターとして活躍中の夏生さえりさん。
毎回ゲストを迎えて「プリ帳」から日本のガールズカルチャー史をひも解く連載企画“プリ帳ヒストリー”。
“盛り”を研究する久保友香先生。誕生以来若い子たちを魅了し、その青春を写し出してきたプリントシール機シェアNo.1のフリュー株式会社。そして長年若者のはやりを見続けてきたSHIBUYA109の視点をかけ合わせることで、各世代のプリ帳を考察していきます。
第6回目のゲストは、「やわらかい明日をつくるノート〜想像がふくらむ102の質問〜」などの著者で、フリーライターとして活躍中の夏生さえりさん。
小学生の頃からプリ帳をつくり“プリ機の評価”をしていたというさえりさんのプリ帳話や、インターネットでの発信について伺いました。

ゲストの「プリ履歴書」

 

【研究メンバーはこの3人】

 

久保友香先生

シンデレラテクノロジーを研究

稲垣涼子さん

フリュー株式会社『ガールズトレンド研究所』で所長を務める

長田麻衣

「SHIBUYA109lab.」で所長を務める

初代プリ帳は小学生時代。“プリ機の評価”が秀逸すぎる!

 

 

プリ帳を作り始めたのはいつでしたか?

 

最初に作ったのは小学生のときですね。隙間にシールを貼ったり文字を書いたりしていました。

小学生の頃から、ここまできちんとしたプリ帳を作っているのは珍しい!

 

3つ上の姉がいて、その影響が大きかったと思います。

 

さえりさんのプリ帳は、なんといっても「プリ機を評価」しているのが面白いです!

 

初めて撮影した機種だったらそのプリの横に感想をメモしたり、最後のページではいろいろな機種の比較をしたりしていました(笑)。ハートの数は“オススメ度”らしいです。

プリ機に興味があったのですか?

 

機械に興味があった訳でもプリ機評価が周りではやっていた訳でもないのですが、小学生でお金がない中プリを撮っていたので、どのプリ機で撮るといいのか、必死だったんだと思います(笑)!

「プリ=盛る」じゃない時代。プリ機を評価するポイントは?

 

こういう評価は雑誌を参考にしていたのですか?

 

これはたぶんオリジナルだったと思います。

 

友達に見せるためにやっていたのですか?

 

特別友達に見せるなどはしていなかったと思います。記録したがりな性格なので、その“記録魔”の習慣のひとつとしてやっていたんだと思います(笑)。撮るときは参考にしていましたね。

 

プリの評価で「イケてる」という言葉がありますが、何が良ければ「イケてる」だったのでしょうか?

たしかに「イケてる」が多い(笑)。天井のカメラで撮影できるようになったときとか、撮るときに「楽しかった」と思った機種はオススメ度に反映されています。他にも落書きの時間が長いor短いとか、印刷後のツヤがあるorないとか色味がどうだとか、総合的に評価していて…あと写りも結構気にしていましたね。

評価の仕方が素晴らしい!この時代ってまだ「写り」というところは今ほど評価されていなかったのですが、さえりさんはそういうところに目をつけていますよね。ましてやこれを作ったのが小学生というのが驚きです!

NSの先駆け!ネット上の匿名投稿は小学生の頃から利用

プリ帳以外にも、プリの使い道はありましたか?

 

小学5〜6年のときに自分でホームページを作っていたのですが、掲示板で遠方の知り合いとプリ交換をしていました。

小学生でホームページ!? 簡単にできるソフトやアプリがあったのですか?

 

いえ、htmlを自分で調べてコピペして作っていました。掲示板で仲良くなったら「相互しましょう」みたいな感じで相互リンクを貼っていて、そのバナーをかわいく作るのがはやっていたような。

す、すごい…!周りもみんなやっていたんですか?

 

匿名を使うのが早い!SNSの先駆けですね!

確かにホームページをみている人は知り合いじゃないですし、知らない人とインターネット上で絡む経験を小学生からしていましたね。

プリ帳は「キラキラした世界」…当時は“3つの世界”を持っていた

 

中学生になるとプリ帳のイメージも変わりますね。

 

中学のときは、プリ帳とかプリに歌詞を書くのがはやっていました。(写真 上)

他社様なのですが、落書きの時に歌詞がコロコロとスタンプで押せるプリ機などもあった時代ですね。

 

プリ帳には友達ひとりに向けたメッセージが書いてあったり、ひとりの友達から貰ったプリをまとめたページがあったりします。それを第三者が見ても楽しめるというのがネットっぽいですね!

確かに手紙みたいなことを書いたりもしていましたが、その相手に見せることが目的ではないので、例えば「小田さん」の特集ページを作っていますが、これを本人が見ることは一生なさそう…(笑)。

日記帳も兼ねていたんですか?

日記帳は別に作っていて自分の悩みとかを吐露する場にしていました。プリ帳を見ると結構明るめな感じに見えますが、実際は保健室に行って帰ったりしていましたし、ちょっと別の世界でしたね。今思えば、当時は「本当の自分」「キラキラ見せたい自分」「インターネット上の自分」という感じで3つ世界があったのかも…。

プリ帳はどんな存在でしたか?

 

プリ帳は人に見せたい表向きのものなので、キラキラしているように、という気持ちがあったと思います。「友達からもらったプリが多い=友達多い」という風にも思っていましたし。 友達のプリ帳に知らない友達が写っていると「この子には知らない世界がある」ってちょっと嫉妬する気持ちになったり…。そのせいか、そこまで仲良くない友達とも撮って充実しているアピールをすることもありましたね。当時はそこまで意識していなかったと思うのですが、そういう気持ちは結構リアルに思い出すことができます。

いまInstagramでリア充感を出すのと同じですね!

 

発信が好き!高校時代は俳優Tの情報をまとめたメルマガを配信

 

高校時代のプリ帳は、また進化していますね!。

 

高校になったらA4のノートにぎっしり貼ろうと決めていて、雑誌の切り抜きとか好きなものを一緒に貼っていました。

完成度が高い!このページ(写真 下)のテーマは「和」だったんでしょうね。

 

モデルさんの切り抜きも結構貼ってある!

 

正直、プリ帳に貼ってあるモデルさんとか、振り返ってみるとそんな熱狂的に好きだったかなっていう感じがして…。もしかすると友達ウケが良かったから貼っていたのかも!はやりを先取りした感を出したい、おしゃれに見られたいという気持ちがあったのかもしれないですね。

プリ帳を他人からどう見られるか、ここまで意識していた人は珍しいかも。

 

人の目は気にしていましたね。友達と誰のプリ帳がかわいいとか「同じ人とばっかり撮ってる」とか、コメントしあうこともあったので。でも自分のプリ帳は友達の中で全然イケてない方だと思っていて、ギャル系の子がそういうのが上手だったので憧れていました。

この時期、携帯電話を使ったインターネットでの情報発信が女の子に一気に広がりましたが、さえりさんも何かしていましたか?

とあるイケメン俳優さんがかなり好きで、出演情報とかを集めて携帯でメルマガを配信していました(笑)!何百人とか登録していたと思います。

すごい!メルマガ配信者と初めて会ったかも…!

 

かわいくするためにギャル文字を駆使したり、絵文字を散りばめたり線を入れたり…デコメールを駆使して頑張っていました。

なんでメルマガを配信しようと思ったんですか?

 

動機はあまり覚えていないんですけど、発信したがりなのかも(笑)。仲のいい友達も、他のイケメン俳優の情報を配信していましたね。

プリ帳の良さは「時間が経っても消せない」ところ

 

Twitterはいつ始めましたか?

 

Twitterは初期から始めたんですが、全く抵抗がなかったです。いまTwitterのアカウントは10個くらい持っていて、5個くらい動いているのですが、出していい情報のレベルをランク分けして使っています。

個人ホームページの時代から常に、複数のレベルの人格を操っているのですね。どこのレベルの自分が楽ですか?

うーん…どれか1つの世界が楽とかではないんですよね。全部あってようやくバランスがとれるというか…!

なるほど!だからたくさん世界を持つことが苦じゃないんですね!

 

改めてプリやプリ帳の良さってどんなところだと思いますか?

 

ネット上のアカウントや昔作っていたホームページなど、もういまは見れなくなっているものもありますが、プリ帳って物なので存在し続けるのがいいですね。

確かにプリ帳を捨てるのってかなり思い切らないと出来ない…!

 

そうそう、例えばInstagramだと昔の写真とか写りがイマイチなものがあると簡単に消せちゃいますが、プリ帳に貼ってあるものは1枚だけ剥がすとかしない。あと、当時の恋愛事情も、プリの落書きなんかに書いてあって…。恥ずかしくてたまらないんですけど、それでも捨てられない。どんな思い出も当時のまま残しておけるのがプリ帳のいいところですね。SNS時代を生きる学生がどんなプリ帳を作るのかも見てみたいなって思います!

 

取材・文/高尾ひとみ

 

 

 

PROFILE

 

稲垣 涼子 Ryoko Inagaki

2005年入社以来、プリントシール機の商品企画に携わる。現在はマネージメントも行う。
趣味は、美味しいもの、漫画、カラオケ、ホットヨガ、ダイビング、脱出ゲーム。なんでも記録するログ癖あり。
今年の目標は、社内の仕組みを整える、社外の方とたくさんお話する、家をキレイに保つこと!

久保 友香 Yuka Kubo

東京大学大学院博士課程修了(環境学博士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、東京工科大学メディア学部講師、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員など歴任。著書に『「盛り」の誕生―女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』(太田出版、2019)。
好きなものは、ビール、羊羹、芸能ニュース。
今年の目標は、昨年に引き続き、昭和初期を知るおばあちゃんたちとたくさん会うこと。

 

長田 麻衣 Mai Osada

総合マーケティング会社を経て、SHIBUYA109のマーケティング担当となる。
毎月200人のaround20(15歳〜24歳の男女)と接する毎日を過ごしている。
好きなものは、うどん、カラオケ、ドライブ。
今年の目標はSHIBUYA109 lab.所長として若者に関する講演に講師として登壇すること。そして「大人っぽさ」と「透明感」を兼ね備えた女性になること。

夏生 さえり Saeri Natsuse

女性向け記事などで活躍するフリーライター。
出版社に入社後、Web編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計18万人を突破。難しいことをやわらかくすること、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)など。